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大分家庭裁判所 昭和49年(家)933号 審判

申立人 樋口進(仮名)

事件本人 永井玉枝(仮名)

昭三〇・四・二生

永井等(仮名)

昭三四・八・一八生

主文

昭和四九年(家)第九九三号事件事件本人永井等の後見人として、

本籍 大分県大分市大字○○×××番地

住所 同市○○○丁目×番××号

永井初雄

昭和三年三月二一日生

を選任する。

昭和四九年(家)第九九二号事件の申立を却下する。

(後見人に対する指示)

後見人が事件本人永井等の亡父永井武男の債務を履行する場合には予めその旨を大分家庭裁判所に報告し、その許可を受けなければならない。

理由

1  申立の趣旨およびその実情

申立人は、事件本人両名の後見人の選任を求め、その実情として、「申立人は事件本人らの近所に居住し、民生委員、児童委員、区長等をしており、事件本人らの親権者である父死亡後は、事件本人らから負債の整理や不動産の管理を任され、親のように慕われている。今後事件本人らの監護教育、高校入学、亡父の厚生年金の受領手続、その他の財産管理処分を行なう必要上申立人を事件本人らの後見人に選任するのが適当である。」と述べた。

2  後見の開始

事件本人らの戸籍謄本によれば、以下の事実が認められる。

事件本人永井玉枝は昭和三〇年四月二日に、同永井等は昭和三四年八月一八日に、それぞれ亡永井武男とスミコの間に出生したが、父武男と母スミコは昭和四六年三月三日協議離婚をし、事件本人らの親権者は父武男と定められたところが武男は昭和四九年八月一六日死亡し後見が開始した。

なお事件本人永井玉枝は昭和五〇年四月二日成年に達したのでもはや後見人選任の必要がなくなつた。

3  申立適格

家庭裁判所調査官井上定光の昭和五〇年一月二〇日付調査報告書によれば、申立人が本件申立をしたのは、事件本人らの亡父武男が生前にその所有地を他に売却したのにその所有権移転登記手続が未了であつたり、農協その他からの借金が残つていたりするので、民生委員や区長などの職にあり地元の世話役的な地位にある申立人が、事件本人の後見人となり、これらの債務を処理するためであり、申立人自身と事件本人らとの間には親族関係もなければ、直接の利害関係もないことが認められる。

以上の事実によれば、申立人は本件申立について申立人適格を欠いているものであるが、事件本人永井等(以下単に「事件本人」という。)の姉にあたり、本件申立について適格を有している永井玉枝を職権により参加させたところ、同人は事件本人の後見人の選任を希望しており、かつ後記認定の事情からして事件本人のために後見人を選任することが必要であると考えられるので、本件申立に基ずき事件本人の後見人を選任することとする。

4  後見人の選任

申立人が提出した各登記簿謄本、家庭裁判所調査官井上定光作成の調査報告書三通、当裁判所の参加人に対する審問の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。

事件本人(一五歳)は本年四月高校に進学し、現在姉の永井玉枝(看護婦、二〇歳)と二人で共同生活をしている。事件本人の財産としては亡父武男から相続(姉玉枝と二人で共同相続)した宅地一筆(二一八・一八平方メートル)、畑二筆(二三八平方メートル、一六平方メートル)、原野四筆(うち三筆が各三五七平方メートル、他は一二五平方メートル)、木造瓦葺二階建居宅一棟(一階八九・二五平方メートル、二階二九・七五平方メートル)があるが、三五七平方メートルの原野三筆については、申立外畠英文が亡父武男の生存中に同人から買受けたものであるとして、同申立外人より所有権移転登記手続の請求がなされており、また○○農協外二名からは、亡父武男に対する貸付金として計八万二、四二〇円(昭和五〇年二月現在判明しているもの。なお、申立書によれば他にも債務がある模様)の請求がなされている。(なお、事件本人の母スミコは再婚し、○○町に居住しているが、武男と離婚後は、事件本人らとの面接交渉は全くなく、事件本人も母親との接触を望んでいない。)

以上の事実によれば、事件本人については後見人を選任する必要があり、その後見人としては、亡父の債務関係について客観的に判断しうる能力を有し、かつ事件本人の利益を保護しうる立場にある人物であることが必要である。そして後見人は身内のものから選任してほしいとの事件本人の叔母小沢さだ子および参加人等の希望ならびに家庭裁判所調査官井上定光の意見等を総合すると、事件本人の後見人としては、事件本人の亡父武男と従兄弟の関係にあつた永井初雄(四七歳)が適任であると考えられる。

5  後見人に対する指示

なお、上記事情を考えると、後見人において、亡父武男の債務を履行しようとする場合には、予め当家庭裁判所に報告し、その許可を受けてから履行するのが相当であると考えられる。

よつて参与員永田玉子の意見をきいたうえ、主文のとおり決定する。

(家事審判官 高橋正)

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